私たちの使命は
企業文化、妙室のムード、家庭の空気など、組織文化を、人間がよりよく潜在能力を開放し成長させることができるものにしていくことです
1000人を超える“指導者”から話を聞いて分かったこと
私は30年近くにわたって金融機関で、さまざまな分野や業種で活躍される 1000人を超える企業経営者(社長・役員、プロスポーツチームの監督など)にお目にかかり、数多くの貴重なお話を聞かせて頂くことができました。さらに所属していた会社がグループ企業との連携をはかる業務を担っていたことから、本社各種本部に加えて各地の支店など、合計200か所以上の事業ユニットを訪問し、それぞれの場所で、役員やマネジャーや従業員の方々から直接お話を聞かせていただくという
めったにない体験ができました。私が訪問した各支店は全国どこにあってもようなじような事業目標を与えられています。ところがその達成度合いには事業ユニットによって驚くほどの差異がありました。
同一企業内の話ですから、どこの支店にも同じようなレベルの人材が同じ訓練を受けて配置され、同じツールを与えているのにパフォーマンスには大きな差が開いてしまうのです。
200人以上のリーダー(支店長、部長など)からそれぞれ個別に直接お話を伺った結果、事業ユニットによってパフォーマンスにこれほど大きな差が生じる主な原因が、マネジメントに対する考え方のばらつきであることは明らかでした。
数値で計測できる結果にコミットする姿勢は誰も同じでしたが、それを達成するための方法は各マネジャーに一任されています。言い換えれば、各事業ユニットの運営は、それぞれのマネジャーの“常識”に基づいて行われています。
ところが、この“常識”が人によって大きく違っていることがマネジメントの一貫性の欠如をを生みだしていたのです。
● | マネジャーが頼りにしている“常識”のタイプがパフォーマンス格差の最大要因 | ||
● | どのような“常識”も、ふたつのタイプに分類できる |
マネジャーの“常識”のタイプが部下の仕事への取り組み姿勢を決定する
type Ⅹ |
「仕事とは“義務”であり、人はお金のために我慢しておこなうものである」 人間は本来なまけもので、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしない |
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type Y |
「仕事とは“使命”の達成や自身の成長を感じる喜びをもたらすものである」 人間は本来進んで働きたがる生きもので、自己実現のために自ら進んで行動する |
「人は周りが期待(イメージ)する通りに行動する」ということがさまざまな調査や実験から明らかになっています。これは群れのなかで生きるように進化してきたことで人間が身に着けた強力なプログラムです。
とくに人は、あらかじめもっていた考え方や意欲にかかわらず、ボスザル、すなわちマネジャーから期待(イメージ)されたとおりの部下になっていきます。
typeⅩ
もしボスが「人は本来なまけものだ」と信じていれば、もともと働き者だった部下も しだいに手抜きをした仕事をするようになっていきます。たとえ口に出さなくても、部下は「見張っていないと仕事をしない」と考えていれば
それば言外のメッセージとなり、相手は仕事そのものの質よりも「真面目にやっているように見えること」を大事にするようになっていきます。
typeY
逆に、ボスが「人間は本来働くことを喜ぶものだ」と信じていれば、部下はより熱心に仕事をするようになります。たとえ相手の誠実さを信じていることを言葉にしなくても
その空気は部下に感じられ、いっそう信頼に応える行動をとらせるようになります。親が子どもの潜在的可能性を信じれば、その可能性は命を吹き込まれ、期待が現実のものとなる確率はぐんと高まります。
マネジャーが「人間とはどのような生き物化」ということについて常識だと思っている信念によって組織の空気、すなわち組織の文化は決定され、その文化の種類によって部下は振る舞い方を変えていることが
全世界で200万を超える事業ユニットを対象とした調査によって明らかになっています。しかし、一概にどちらのタイプの考え方がすぐれているとは言えません。なぜなら、マニュアルによってルーティン化された労働は非常に効率的だというのは事実であり、高度なトレーニングや
働く人の人間的な成長などを必要とせず、その代わり、活力や創造性を発揮してやりがいを感じるチャンスがめったにない単純労働が今日の社会の物質的な繁栄を支えられているからです。
ところが、最近20年ほどのあいだに、社会の急激な変化によって
活力や創造性を高度に求められる仕事が急激に増えてきています。もしもマニュアル化できない高度なレベルで生産性や顧客満足度の向上などでより高い成果を求められるチームのマネジャーが
“タイプX”であれば、目標の達成は極めて困難なものとなるでしょう。
経営戦略の最重要課題は文化の構築
高い目標を掲げる組織には、タイプYのマネジャーや教師、親がつくりだす 人々の潜在能力を開花させてさらなる成長と高度な能力の発揮を促す組織文化を構築することが、組織が競争力を飛躍的に高めるために最優先で取り組むべき課題だと理解されるようになってきました。従業員へ賃金だけでなく
“働く喜び”を報酬として提供できる組織や、子どもたちに学ぶこと自体の喜びを伝えられる学校や家庭が、驚くほど高い成果をあげていることに気づく人が増えてきています。
組織の成功への欲求とメンバー個人の成功への欲求は対立するものではなくなりました。さらに、組織の利益追求とメンバー個人の幸福追求、ふたつの目標は互いに貢献し合うものだと理解されるようになってきました。 さまざまな分野で、過去に例がないほど高い目標を達成することを求められるようになった現代社会においては、どちらか片方だけがもう一方の犠牲の上に成功を収めるということができなくなりました。
組織の成功はメンバーが個人的に成功することによってもたらされ、メンバー個人は組織の文化がもつ優れた動機づけの能力によって成功へと導かれるということ、
また、組織とメンバー個人が互いに成長を支え合う関係を構築できている企業では、生産性や収益性、顧客満足度、従業員定着率などすべての経営指標が非常に優れていることが、さまざまな調査や研究によって明らかになってきたのです。
組織と個人が互いの成功を後押し合い、しかも、それぞれの力を飛躍的に高め合う、両者が相互に貢献し合いながらより大きな成功へと導き合う組織モデルは、繁栄を長く続ける組織に共通したものです。
いまや組織文化が目標達成能力を左右する最大のカギを握る時代になっています。
✔ | 企業の生産性・収益性・顧客満足度・従業員定着率の向上 | ||
✔ | 子供の好奇心や試行錯誤する力、学習能力の向上 | ||
✔ | スポーツ技能習得の効率や達成意欲の向上 | ||
企業や家庭、チームがもつ組織文化 = 組織のすぐれた空気が 成功を生み出す原動力 |
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膨大な調査や研究も組織文化の重要性を裏付けている |
パラダイムシフトに乗り遅れそうな日本の組織
ところが、“組織文化を構築”することがもっとも効率のよい投資であるという事実に気がついているのはいまだ少数派です。画期的な組織モデルの日本での活用度はOECD加盟国中ほぼ最下位という調査報告さえあります。
日本企業の経営指標が伸び悩んでいる理由や、日本の子どもたちの学力順位が下がっている最大の理由は、時代の変化に対応した文化を構築できていない組織の割合が日本では非常に高いからです。
時代に合わなくなった文化を引きずっていることが、日本の組織から活力や創造性を奪ってしまっています。
なぜ日本の組織は変化できないのでしょうか? それは日本人が科学知識に関心が低く、また合理的に考えることを苦手としているからでありません。それには主に二つの理由があります。
まず、日本人がまじめすぎるからです。きちんとした習慣を身に着けて、着実に行動していくことができる人々は、逆に変化を拒み、新しい考え方を受け入れられない傾向ががあります。
次に、日本人が経験した高度経済成長のインパクトがあまりに大きすぎたからです。「夢よもう一度」と願うときに、自身の成功体験を横に置いて、さまざまな角度からあらゆる可能性を冷静に判断するというのは誰にとっても難しいことです。
ひとつの課題にさまざまな立場からともに挑戦する組織の、上司と部下、あるいは親と子、コーチと選手のように、権力をもつ人ともたない人とのあいだで、どのような会話がおこなわれているのかが組織文化の中核にあります。
知的価値創造性が求められる時代なのに、弊害が目立ってきた昔ながらの考え方を基準にして運営されている組織が多すぎる | |||
✔ | 人はお金のために働くもので、仕事を楽しむのは一部のエリートの特権 | ||
✔ | 人は理性で行動するものだから、やるべきことを理屈で説明するのがいちばん | ||
✔ | 人を成長させるには、弱点を克服させるのが一番の近道 | ||
間違っていることが証明されている考え方に固執し続けている |
窮すれば通ず(ピンチはチャンス)
VUCA = 不安定さ(volatility)不確実さ(uncertainly)複雑さ(complexity)曖昧さ(ambiguity)が強まる世界では、ビジネスを取り巻く環境は厳しく、試練だけが増えているように感じられるものです。
このような環境では当然、組織全体とメンバー個人に要求させる課題をこなしていくことは難しくなります。たしかに、これまで当たり前だと思われてきたやり方ではニーズに応えられなくなっていいます。
一方で、VUCA が強まる世界だからこそチャンスが拡大していることに気づく人は少数派です。新しい能力を獲得し、新しい環境に適応していくためには、余計なものを捨てなければなりません。だれにとっても、いったん身に着けたものに見切りをつけるのは難しいものです。
ましてや、それがかつての栄光(高度経済成長)を支えたイデオロギーであればなおさらです。しかし、競争のルールがすっかり変わってしまったのですから、ビジネス・モデルや学習スタイル、トレーニング方法を変えるのは当然です。
21世紀にはいってから急速に進む、成果を求めるプロセスについての考え方の歴史的な変化は明治維新以来最大の大地殻変動です。 この歴史的な変化を正しく理解していない組織が多いという事実は、日本経済全体にとって非常に残念な事態です。
しかし見方を変えれば、この状況は競争優位を得る絶好のチャンスです。しかも、現在求められている“変化” とは、「新しいことを学んで身に着ける」ようなものではありません。「もともと知っていたことを思い出すだけ」で成し遂げられる簡単な変化です。
いま世界の最先端をいく企業が競って構築しようとしている“企業文化” とは、“人間中心主義” に基づいた組織文化です。これは、「人間が遺伝子によってプログラムされているデフォルト(そのまま)の特性を活用しようとするものです。
言いかえれば、産業革命以降「人間の本来の性質を歪めて矯正する」という極端なやり方を、人間本来の性質に合ったものに戻そうとする試みです。しかも、その素晴らしい効果は20年以上に及ぶさまざまな調査や研究によって実証されています。
組織の文化を適正化とはとても簡単な作業
世の中には「成功をもたらす画期的な方法」だとうたわれる多くの手法があふれかえっています。たしかに、それらのなかには真理を含んだものも数多くありますが、
土台となる組織文化が時代に合っていなければ、せっかくの真理が活かされることはありません。企業や家庭、スポーツチームなど多くの組織では、今まで以上に高い成果をあげようとする懸命な努力が空回りしてしまっています。産業革命や明治維新のころから使われ、70年も昔に確立された理論に基づいた努力が報われないのは無理のないことです。
しかし、経営者やマネジャー、親、コーチが、自分たちが常識だと信じて 判断の基準にしてきた考え方の一部が、実は、成功を目指す努力の足かせになっているということに気づくだけです。そして
“心のメカニズム”を理解すれば、というより思い出すだけで、人々は今まで以上に高い能力を発揮してくれます。